一瞬の美を永遠に
- 村山直儀作品の魅力 - ジャーナリスト・金子美樹
私たちが村山直儀の作品世界に惹かれるのはなによりもその躍動感に満ちた表現にあろう。数多く積んだ速写の修練を思わせる群馬の疾走図、 想像力と写実力が結ぴついた武者たちの戦いの場面、 ボリショイバレエ団に取材した華腿なるプリマたちの舞。 時に男性的な力強さを、時に優雅な女性美の極致を、と自在に描き切って見せる。
若き日、ターナーの風景画に魅せられ画家の道を志したという村山直儀。風景画と人物画の違いはあれど一瞬の美をキャンバス上に永遠に取り込みたいという思いはいまなおこの画家の基本をなす。 そしてそれを可能にしているのは卓抜な速写力、即ち瞬間を逃さぬクロッキーの力量である。
日本の洋画壇は明治の草創期に黒田清輝らがフランスの外光派と呼ばれるスタティックでバランスのとれた画法をアカデミーの主流に導入したこともあり、どちらかといえぱ動きのあるドラマティックな絵画は敬遠されてきた。 明治のー時期ロマン派の台頭で歴史に材題を求める動きがあったり、戦中に宮本三郎や藤田嗣治らが表現性の髙い戦争記録画を残しているが、これらは例外的なケースである。 油彩画の本場の西欧では早くから旧約聖書の物語やキリストの殉教と再生の物語に材をとった作品やキリシャ神話に材をとった作品が数多く描かれてきた。 近代になってもジャック・ルイ=ダヴィッドによる 「アルプスを越えるナポレオン」やドラクロワの 「民衆を率いる自由の女神」 のような躍動感に満ちた名作が残されている。 いまでもこれらはルーヴル美術館を肪れる世界中の美術ファンの人気の作品である。
日本ではこう言った ドラマティックな絵画表現は戦前から文展などの中央画壇より少年雑誌のグラビアや挿絵の世界で好まれ (髙畠華宵など)、戦後もそれを受けて漫画・劇画の作家がそれを得意としてきた。近年はサブカルチャーといわれるコミック、アニメ、 ゲームの分野の作家がそれを発展的に受け継ぎ、世界的評価でみるとむしろ旧態依然たる既成画壇を押しのけて日本のメジャーカルチャーにとって代わろうという勢いである。 たとえば 「刀剣乱舞」なるゲームがこれまでの古美術刀剣ファンに限られていた日本の刀剣鑑賞の世界をリフレッシュさせるなどサブカルチャーのもつ潜在力はおそるべしである。
この状況下にあって村山直儀の絵画はいまだジャンル横断的にその注目度を髙めつつある。油彩画の系譜にありながらこれだけの写実力とロマン的な構想力を兼ね備えた作家がいることはサブカルチャーで育ってきた新世代の人々や日本文化に興味を持つ海外のファンにも新鮮な驚きともなろう。コレクターが画壇のヒエラルキーや美術団体での役幟に関係なく自分の眼と心でスパッと作品を評価する時代になると、 彼のような独自の世界もった絵画のアルチザンは強い。
いま一度確認しておこう。
「一瞬の美を永遠に」これが村山直儀の芸術の核心である。
(美術ジャーナリスト)